めんどくさイイ女〈後編〉

「これ、僕の携帯に自宅から転送されてるんです。

今、県外にいるんで携帯に掛けて下さい」と彼。


「あら!申し訳ありません!

失礼しました」と電話は切れました。


アタシ「大丈夫なの?」


彼「出ないでいようと思ったけど緊急だったら

いけないし。

でも、緊急性は無かったから…」


「で、さっき何話そうとしてたの?

聞きたいな」

何事も無かったかのような彼。


「つまらない話だからもういいわ」

アタシは黙って俯きました。




ホントは大人の女らしく

聞き流そうかと思いました。


でも、辛くて苦しくて我慢出来ませんでした。









アタシの心の中の天秤は大きく揺れてました。




彼と一緒にいて楽しいか。



彼と一緒にいて辛いか。




天秤の秤りは大きく傾いて…




『辛くて、悲しい思いをする方が圧倒的に多い』




そう結論が出ました。






彼「ゴメンね。

何て間が悪いんだろ」




黙り込むアタシに「黙ってないで何か言ってよ」と。




アタシ「不可抗力だもん。

貴方が悪い訳じゃない」


彼「嫌な思いさせてゴメン。

一緒に食事してくれる?」


アタシ「……」







食事なんかしたくない!

そもそも食欲なんか全く無いわ!




でも、お店に予約時間を延ばしてもらって

キャンセルするなんて事出来ない(;ω;)




アタシの目からは大粒の涙がボロボロと

溢れて来ました。



嫌だ。

辛い。

悲しい。



そればかりしか浮かばない。



でも、最後に和やかに食事して

穏やかに別れるのもいいかも知れない。



アタシは彼と食事する事にしました。



血の滴る熟成肉のレアのステーキを前に



アタシ「今日はここで帰るわ。

次の店には行かない」


彼「そっか」

「悲しいな」


アタシ「もうお別れしたいの」


彼「どうして?」


アタシ「もうしんどいのは嫌なのよ」


彼「今まで嫌な思いさせてゴメン」



アタシは赤ワインをがぶ飲みしました。

歯にステインが付いても知るもんか!



2人で黙々と肉を食べ、ワインを飲みました。



帰り際に酔ったアタシはバカな質問をしました。




アタシ「これからは奥さん一筋?」



彼「そうだね」




ぶち切れたアタシ。



アタシ「ふざけんじゃないわよ!

じゃあ何で付き合ったのよ!」


彼「彼女はもう作らないって意味だよ」


アタシ「顔も見たくないわ!

さっさと帰って!」


彼「ちゃんと送らせてよ」


アタシ「嫌よ!

アタシはこれから1人で飲みに行くんだから」


彼「俺も行く」


アタシ「アタシは1人で飲みたいの!」


アタシは泣きながらズンズンと歩き始めました。


後から付いてくる彼。


アタシ「付いてこないで!」


彼「嫌だよ。

貴女と別れたくないんだ」


アタシ「じゃあ何であの時

『黙ってないで何か言って』なんて言ったのよ!


黙ってたのは貴方じゃん!


『大好き』って一言言ってくれさえしたら!


アタシの事、何で安心させてくれなかったの?


女心をもう少し勉強して出直して来たら?」


彼「ソネミさんが大好きなんだよ。

別れたくない」


今にも泣きそうな彼の顔。


悔しいけど、

ホントはアタシだって別れたくない。





アタシは彼のネクタイを掴んで、ぐいと引き寄せました。


そして耳元で


「じゃあ、アタシに良いお酒を飲ませなさい」と。



彼は目を潤ませて…



「こんなイイ女いないなぁ。

今の言葉、最高にしびれたよ」


彼はニッコリ笑うと

アタシの手を繋いで、いつものバーへ。


彼「〇〇君!

今日はシャンパン開けようかなぁ」


マスター「何かいい事あったんですか?」


彼「ううん。

ソネミさんに1番良いお酒をご馳走するんだ」


アタシ「そう。

アタシを怒らせた罰にね」



シャンパンはやめて

とても高いラムをロックで何杯も飲んでやりました(笑)



ここのバーは高級だけど

すごく流行っててすぐに満席に。



彼「混んできたね。

そろそろ出ようか」



そこからいつもの川沿いのホテルへ。

獣みたいに彼はアタシを求めて来ました。



彼「何回惚れ直させるつもり?」


アタシ「何の事?」


彼「わかってるくせに。


『良いお酒飲ませなさい』って


俺を許してくれて

良い酒を置いてるバーに行こうって誘ってくれたんでしょ?


色んな意味が含まれてるじゃん。


そんなの敵わないよ。


こんな最高にイイ女いないよ。


骨抜きにされちゃった」



ギューギュー抱きしめられて。

帰りのタクシーでもずっとキスばかりしてくる彼。



帰ってからのチャット。


彼「好きで好きで死にそうでした❤️」


アタシ「2人の忘年会は

ラブラブデートのリベンジしてね」


彼「もちろん!

望むところです❤️」


アタシ「もっと好きになってね」


彼「死んじゃうかも知れないけど…

もっと好きになります❤️」








ホント、めんどくさい女。


イイ女にはほど遠いけど


彼にとっては

『めんどくさイイ女』

くらいにはなれるのかも知れません。